【源氏m@ster】帚木【第ニ帖】を読む

くるわPのブログ「日々、貴女を想う」にて、桐壺の記事を紹介していただきました。
うん、ちょっと褒めすぎですよ。でも、有難うございます。
今後も源氏m@sterの雰囲気を壊さぬよう、こっそりと支援していきたいと思います。
どうぞ宜しく。
勝手ながらブログへのリンクもさせていただきました。
という事で、調子に乗っていきましょう。【源氏m@ster】帚木【第ニ帖】、原文パートの現代語訳です。
【源氏m@ster】帚木【第ニ帖】

今回のタイトル「帚木」ですが、何と読むかわかりますか?実は私、最初わかりませんでした。
いや、習ったとは思うのですが……。正解は「ほうきぎ」。古文表記をするなら「ははきぎ」となります。
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今回「帚木」というタイトルが出る前に、「桐壺」の残りが何シーンか挿入されています。
場面一

この君の御童姿、いと変へまうく思せど、
十二にて御元服したまふ。
居起ちおぼしいとなみて、
限りあることに事を添えさせたまふ。
ひととせの春宮の御元服、南殿にて有し儀式、
よそほしかりし御響きに落とさせたまはず。
所々の饗など、 内蔵寮、穀倉院など、
おほやけごとに仕うまつれる、おろそかなることもぞと、
とりわき仰せ言ありて、きよらを尽くして仕うまつれり。

(帝は)源氏の美しい子供姿を、変えたくないと強くお思いだったが、
十二歳で元服なされた。
その際(帝は)御自身がお世話を焼かれて、
定められた式の作法に加え、さらにできるだけの事をと御指図をされた。
先年に南殿(紫宸殿)で執り行われた皇太子の元服の儀式は、
いかめしくも盛大であったと世に評判となったが、それに劣らせまいとされた。
宮中の各所で催される饗宴などにも、(帝から)「内蔵寮や穀倉院などが行う、
公の作法に従った仕度では、よもや不足があってはいけない」と、
特別に勅命があって、きわめて華麗な宴にされた。
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帝は今回も自重しません。トップが空気を読めないと、周りが苦労しますよ?1,000年後のどこかの国みたいに。
ともかく、源氏も晴れて大人の仲間入り。12歳という年齢は早い方ですが、11歳という例もある様です。
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場面二

光君といふ名は高麗人のめできこえて
つけたてまつりける、
とぞ言ひ伝へたるとなむ。

光の君という名は
「高麗人が源氏の事を褒め称えてお付けしたものだ」
と(世間では)言い伝えているということだ。
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第一帖での説明とは「光の君」という名の由来が異なりますね。
これは事実(源氏物語は女房の記録という体裁を取っています)と世間の言い伝えは違うものだ、という、
紫式部のメッセージなのかもしれません。それに「皇太子よりもイケメンだから」なんて理由では、
いろいろマズいでしょうしね。
第一帖「桐壺」はここで終了。いよいよ第二帖「帚木」が始まります。
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資料によると「源氏物語における最初の難所」らしいですよ。ドキドキ。
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場面三

光源氏、名のみことことしう、
言ひ消たれたまふ咎 多かなるに、いとど、
かかる好きごとどもを、末の世にも聞き伝へて、
軽びたる名をや流さむと、
忍びたまひける隠ろへごとをさへ、
語り伝へけむ人の もの言ひさがなさよ。

光源氏と、名前だけはご立派だが」と、
(源氏の人生は)言い淀んでしまう様な事柄が多いという話なのに、その上、
「このような色恋沙汰が、後世にも聞き伝えられて、
 自分が軽薄だという評判が残っては」と、
(源氏が)隠していらっしゃった秘め事までを、
語り伝えた人は意地が悪く、おしゃべりな事だ。
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前帖で主人公をベタ褒めしといて、いきなりこれです。源氏涙目。
先にも書いた通り、この物語は「ある女房の記録」という設定。つまり「語り伝えた人」というのは、その女房という事です。
たぶん、紫式部の周囲には、日常的にその手の噂が飛び交っていたんでしょう。
そういうのってどうなの?みたいな作者の主張が見える気がします。
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場面四

まだ中将などにものし給ひし時は、
内裏にのみさぶらひようし給ひて、
大殿には絶え絶えまかで給ふ。
忍ぶの乱れやと、疑ひきこゆることもありしかど、
さしもあだめき目馴れたるうちつけの
好き好きしさなどは好ましからぬ御本性にて、
まれには、あながちに引きたがへ
心づくしなることを 御心に
思しとどむる癖なむ、あやにくにて、
さるまじき御振る舞ひも うちまじりける。

まだ近衛中将など(の身分)でいらっしゃったころは、
(帝と藤壺の居る)内裏ばかりでお過ごしになり、
(葵の上が待つ)大殿邸には稀にしか御出でにならない。
左大臣の家では)「秘密の恋に乱れたのでは」と、お疑いする事もあったが、
そんな軽々しい、ありふれたその場限りの
恋愛沙汰など好きでない性格で(あった)、
(ただ、その一方で)時には、その身にそぐわない
思い煩う様な恋を 御心の内で
深く思いつめる癖が、困った事に(源氏には)おありで、
よろしくない御振る舞いも 無いでもなかった。
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動画内で触れられていますし、またコメントにもありますが、光源氏は継母である藤壺(美希)に想いを寄せています。
というか既に……ゴニョゴニョ。
身にそぐわない恋というのは藤壺への思慕であると同時に、この先語られるいくつもの恋の事でもあります。
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ここで幕間。動画で省略されている「雨夜の品定め」について。
これは光源氏が知り合いの男性3人から「いい女の定義」を聞かされる、という、ちょっと変わったエピソード。
やたら長い上にかなり勝手な事を言いまくっているので、要点のみとり上げてみます。
・頭の中将(源氏の友人であり、葵の上(千早)の兄)が源氏に「中流階級の女が個性的でいい」と告げる。
・小さな娘を自分の理想通りに育てればよくね?→めんどくさい。
・結論「理想を言えばきりがないけど、結婚するなら家柄より人柄だよね」
・頭の中将は妹と源氏の仲を心配するが、源氏は寝たふり。聞けよ。
・中将の失敗談。気の弱い「中流階級の女性」に逃げられた話。和歌の意味を取り違えるとめんどくさい事になる。
・中将と逃げた女性との間には子供がひとり。
とりあえずは、こんなところでしょうか。この一見しょうもない話が、後の源氏の人生に関わってくる事になります。
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場面五

寝殿の東面払ひあけさせて、
かりそめの御しつらひしたり。
水の心ばへなど、さる方に
をかしくしなしたり。
ゐなか家だつ柴垣して、
前栽など心とめて植ゑたり。
風涼しくて、
そこはかとなき虫の声々聞こえ、
蛍しげく飛びまがひて、
をかしきほどなり。

紀伊守の)寝殿の東側を片付け、(源氏に)明け渡させて、
急ごしらえの御座所を仕度した。
(屋敷は、庭を流れる)遣り水のつくりなど、庭園部分は
趣深い作りになっている。
(あえて)田舎の家風に柴垣を廻らし、
庭木の植え方などにも気を配ってある。
風が涼しく吹いて、
どこからともなく微かな虫の声が聞こえ、
蛍がたくさん飛び交って、
趣ある様子を見せている。
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なんとも風情のある御屋敷の描写と、その一室を貸し切りにして居座る源氏。
習わしとはいえ、ぶっちゃけ迷惑だろうなぁ。
紀伊守」というのは地方の役人の事。いわゆる「中流階級」です。
そして、この屋敷に「伊予守」(紀伊守の父。やはり地方役人)と、その若い妻が居る事を源氏は知る事になります。
中流階級の、女。
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場面六

つれなきを 恨みもはてぬしののめに
とりあへぬまて おとろかすらむ

貴女のつれなさに 恨みも言い足りぬまま空は白みかけて
鳥達までも(とるものもとりあえずという程に)鳴いて 私を急きたてるようです
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身の憂さを 嘆くにあかで明くる夜は
とり重ねてぞ 音もなかれける

我が身の嘆かわしさを いくら嘆いても足りぬまま夜が明けて
(私も)あの鳥達の声に(悲しみを)重ねて 声をあげて泣かずはいられません
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源氏の歌と、それに対する女性(空蝉=真)の返歌。和歌というのは受けたら返すのが礼儀。
この状況で返さんでも、というのは、現代の感覚なんでしょう。
それにしても、源氏の歌は……どうなんでしょ、これ?
対して、空蝉の歌は源氏の歌に、痛烈なカウンターをくれています。自分の今の境遇を憂えた、悲しくも強い歌。
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場面七

見し夢を 逢ふ夜ありやと嘆く間に
目さへあはでぞ 頃も経にける

夢が現実となったあの夜の様に (貴女に)逢える夜があるだろうかと嘆くうちに
(お逢いするどころか)目を閉じて夢に見る事も出来ず 時が過ぎ去ってしまいました
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源氏が空蝉へ贈った歌。源氏の自重しない性格は父親譲りです、間違いなく。
超がつく上流階級の源氏から、これだけ直球な愛の告白をされてもなお、空蝉は源氏に応えようとしません。
返歌すら贈らない、というのは相当な無礼にあたるのですが、それは彼女なりの想いがあっての事……。
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場面八

御文は常にあり。
されど、この子もいと幼し、
心よりほかに散りもせば、
軽々しき名さへとり添へむ、
身のおぼえをいと つきなかるべく思へば、
めでたきこともわが身からこそと思ひて、
うちとけたる御答へも聞こえず。
ほのかなりし御けはひありさまは、
「げに、なべてにやは」と、
思ひ出できこえぬにはあらねど、
「をかしきさまを見えたてまつりても、何にかはなるべき」など、
思ひ返すなりけり。

(空蝉は)常に(源氏からの)手紙をもらっていた。
けれど、(使いである)小君はとても幼く、
「うっかり(自分からの返事を)落としでもしたら、
 軽い女だという風評まで自分が背負う事になる」と、
今の(地方官僚の妻という)自分の身分を考えても (源氏に応えるには)相応しくなく思うと、
「(源氏からの)ありがたい話も、私の身分が相応しければ(応じる事も出来るのに)」と、
心を許した返事を差し上げる事もない。
(逢瀬の夜に)僅かに見た(源氏の)雰囲気やご様子は、
「本当に、並々ならぬ素晴らしい御方」と、
思い出さずにはいられないが、
「今更(源氏の)お気持ちに応えても、もうどうにもならない」などと、
考え直すのであった。
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ここでも女性を悩ませるのは身分。そして運命の数奇さ。
彼女も本来は上流階級の出。父親が病死した事で、伊予守との結婚を余儀なくされた境遇の持ち主です。
運命(男性社会と言いかえる事もできるでしょう)に翻弄される自分の人生を嘆き、また自分と関わる事で、
源氏の評判までが貶められる事を恐れているのです。
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場面九

君は思しおこたる時の間もなく、
心苦しくも恋しくも思し出づ。
思へりし気色などのいとほしさも、
晴るけむ方なく思しわたる。
軽々しく這ひ紛れ立ち寄りたまはむも、
人目しげからむところに、
便なきふるまひや あらはれむと、
人のためもいとほしく、と思しわづらふ。

源氏は、(空蝉を)片時も忘れる事無く、
心苦しくも恋しく思い出しなさる。
(彼女の)思い悩む様が気にかかり、
気が晴れぬままに想い続けておられる。
安易に他人に紛れて立ち寄ろうにも、
(屋敷は)人目の多い所であるため、
都合の悪い所を見られては自分も困るし、
彼女にも申し訳ない、と考え込んでいる。
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こっちはこっちでお悩み中。
源氏なりに彼女の事も想いやっている様ですが、結局は突撃してしまいます。若さか……。
というか、葵の上=千早が不憫で泣けます。
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場面十

帚木の 心を知らでその原の 
道にあやなく まどひぬるかな

近づけば消える帚木の様な 貴女の心を知らなかった私は
(貴女に逢おうとして)園原への道で むなしく迷っているのです
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どうしても会おうとしない空蝉への源氏の歌。ここで登場するのがタイトルの「帚木」です。
帚木とは「見えはするが近づくと消えてしまう伝説の木」の事。古今和歌集に有名な歌があるそうなので、ご紹介します。
園原や 伏屋に生ふる帚木の ありとて行けど 逢はぬ君かな
坂上是則
源氏はこの歌になぞらえ、会おうとしない空蝉に想いをぶつけます。なるほど、これは「さるまじき御振る舞ひ」だなぁ。
そんな源氏の歌に、彼女は涙をこらえつつ……。
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場面十一

数ならぬ 伏屋に生ふる名のうさに
あるにもあらず 消ゆる帚木

取るに足りない 伏屋の地(卑しい家)の生まれと呼ばれる事が辛いので
私は貴方の前から消えるのです 儚い帚木の様に
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あなたの言うとおり、私は帚木なのだから消えてしまいます。どうか忘れてください……。
そんな歌です。切ない。帚木に由来する地名を挿む辺りに、彼女の教養の高さが窺える、とかいう解説は野暮というもの。
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場面十二

のたまひて、
御かたはらに臥せたまへり。
若くなつかしき御ありさまを、
うれしくめでたしと思ひたれば、
つれなき人よりは、なかなかあはれに
思さるとぞ。

そう言って、(源氏は小君を)自分のそばに寝させた。
若く美しい源氏の横に寝ていることを
(小君は)とても喜んでいるので、
(源氏は)無情な恋人よりも(小君の方が)かわいらしいと
思ったとさ。
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源氏、ショタ萌えに目覚めるの巻。
ではなくて、拗ねる源氏の未熟さに笑うべき所なんでしょう。まぁ小君は本当にかわいいし、ちかたないね。
というわけで、第二帖「帚木」でした。
若い源氏の恋。想い人が逃げ続ける事で、その恋は更に燃え上がります。
完璧超人かと思いきや、意外と「人間」なんですね、光源氏って。
それでは次回、第三帖「空蝉」にて。