【源氏m@ster】空蝉【第三帖】を読む

くるわPが源氏m@sterの新作を投稿されました。
【源氏m@ster】末摘花【第六帖】

サムネでバレちゃってるのが、ちょっともったいないなぁと思ったり。
まぁ、予想通りという方が多かった様ですが。
実は末摘花も出オチキャラと見せて、なかなか良い役どころなので、後にガチホメタグが付く可能性も……ないか。
それと、次帖「紅葉賀」の登場キャラについてですが……難しいですねー。
色を好むという性格を考えると、舞さんあたりでしょうか。あとは石川社長とか(真黒ですが)。
顔グラのある年上の女性と言うと、他には記者の善永さんが居ますけど、60歳設定は不憫かなぁ。
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そんなこんなで、今回は第三帖を読んでいこうと思います。
【源氏m@ster】空蝉【第三帖】

短いながらも趣深い、空蝉の物語。うまく表現できると良いのですが。

そういえば、前帖から真の演じる女性を「空蝉」としていますが、本文中では「女」「女君」としか表記されていません。
ですがそれでは素っ気ないので、訳でも彼女の事を「空蝉」と表す事にしました。
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場面一

寝られたまはぬままには、
「我は、かく人に憎まれても
ならはぬを、
今宵なむ、初めて
憂しと世を思ひ知りぬれば、
恥づかしくて、
ながらふまじうこそ、思ひなりぬれ」
などのたまへば、
涙をさへこぼして臥したり。

(源氏は)眠れないままに、
「わたしは、(今まで)こんな風に人に恨まれた事などはなかったのに、
今宵、初めて世の遣り切れなさを知った事で、
恥ずかしくなり、もう生きて行けないような気持ちになってしまった」
などとおっしゃると、
(聞いていた小君は)涙まで流しながら横になっていた。
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女性にフラれて寝れないなんて、今まで絶好調な人生を歩んできた源氏の、打たれ弱さが見えますね。
ちょっと親近感を持てるかも。
しかし、それを女性の弟に愚痴るのはどうなのよ。小君カワイソス。
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場面二

碁打ち果てつるにやあらむ、
うちそよめく心地して、
人びとあかるる けはひなどすなり。

碁を打ち終えたのだろうか、
衣ずれの様な音が聞こえ、
(空蝉と軒端荻の)女房達が自分の部屋に退いた気配がした様だ。
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碁って、TVなどを見ていてもさっぱりルールがわかりません……どうでもいいですね、はい。
この場面、源氏は小君と一緒に屋敷の戸口に居るので、物音で中の気配を察している、という描写になっています。
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場面三

君は入りたまひて、
ただひとり臥したるを心やすく思す。

源氏は(部屋に)お入りになり、
(女性が)一人だけで寝ている事に安堵される。
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チャンスダー!(ktzw3風に)
この時代、当然ながら室内は真っ暗です。
その上、空蝉が残した衣に彼女の香が残っていたので、源氏は勘違いしたわけですね。
まぁ勘違い以前に「いい加減自重しろ」と言いたい。
この辺りの源氏の行動については、作者の紫式部自身が、かなり手厳しく評しています。
「貴女が書いたんでしょ」と源氏も言いたいでしょうが、当時の男性は程度の差はあれ、こういう部分があったんでしょうね。
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場面四

小君、御車の後にて、
二条院におはしましぬ。
ありさまのたまひて、
「幼かりけり」と
あはめたまひて、
かの人の心を
爪弾きをしつつ
恨みたまふ。
いとほしうて、
ものもえ聞こえず。

(源氏は)小君を、(自分の)牛車の後ろに乗せて、二条院にお帰りになった。
屋敷での事を(小君に)話され、
(小君の事を)「(お前の計画が)幼稚だった」とお責めになり、
あの女性(空蝉)の(自分への)気持ちを爪弾きしながらお恨みになる。
(小君は源氏の事が)気の毒で、何も言う事ができない。
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小君は源氏を殴っていいと思います。子供にあたるなよ……。
「爪弾き」というのは、当時の人が誰かを非難する時にする仕草の事。
今でも「爪弾きにする」という言葉は残っていますよね。その語源です。
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場面五

「空蝉の 身をかへてける 木のもとに
なほ人がらの なつかしきかな」
と書きたまへるを、
懐に引き入れて持たり。
かの人もいかに思ふらむと、
いとほしけれど、
かたがた思ほしかへして、
御ことつけもなし。
かの薄衣は、
小袿のいとなつかしき 人香に染めるを、
身近くならして見ゐたまへり。

蝉が脱け殻を残し 姿を変えて去ってしまった木の下で
(抜け殻の様に衣だけを残して去った貴女の)人柄を 今も(私は)慕っております
と(源氏が)お書きになった畳紙を、(小君は)懐に入れて持っていた。
「あの女性(軒端荻)もどう思っているだろうか」と、(源氏は)気にはなったが、
いろいろと考えて、(小君を通じて)言伝をする事もない。
あの薄衣は、(空蝉が纏っていた)とても懐かしい空蝉の香が残る小袿だったので、
(源氏は)それをいつもお側に置いて、ご覧になっている。
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この源氏の和歌は、空蝉を詠んだものではありますが、空蝉に贈ろうと思って書きつけたものではありません。
眠れぬほどの想いを整理する為に、思わず懐紙にメモったイメージ。
それを小君は(おそらく源氏に無断で)持ち出し、姉に手渡した、と。
本文中の「小袿」というのは、当時の女性が身に着けていた上着の名称だそうです。
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ところで作中に頻出する「香」についてですが、青空文庫Pが教養講座で解説されています。
菊地真のお香大好き(HD)

作者:青空文庫P
独特のセンスで語られる香の魅力。ホント、ニコマスにはなんでもありますね。
源氏物語の世界観を補完するという意味で、ぜひ一度ご覧になってはいかがでしょうか。
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場面六

つれなき人も、さこそしづむれ、
いとあさはかにもあらぬ御気色を、
ありしながらのわが身ならばと、
取り返すものならねど、
忍びがたければ、
この御畳紙の片つ方に、
「空蝉の 羽に置く露の 木隠れて
忍び忍びに 濡るる袖かな」

(源氏に対して)冷たい態度の女性(空蝉)も、その様に心を静めてはいるが、
(源氏の愛情が)軽々しいものではない様子に、
「(もし私が)結婚する前の身だったら」と、
昔に返れるものではないのに、
(自分の気持ちを)抑えきれなくなって、
この畳紙の端の方に、(次の様に書いたという事だ。)
蝉の抜け殻の羽(葉)にある露が 木陰に隠れて見えない様に
私も人目を忍び 涙で袖を濡らしています
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第三帖「空蝉」のラストシーン。
先の場面で小君が持ち出した懐紙を読んだ空蝉が、その紙の端に、誰にも知られず独り返歌をしたためるという、印象的な場面です。
ちなみにこの和歌は「伊勢集」からの引用だとか。
募る想いに、オリジナルの和歌を詠む事もできなかった……なんてのは、考えすぎでしょうかね?
「蝉」と「露」という儚さを象徴する言葉に、自分自身を重ねた歌です。
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というわけで、第三帖「空蝉」でした。
光源氏の、若さゆえの未熟な色恋と、内心では彼に惹かれつつも、毅然としてそれを退けた空蝉。
空蝉は「紫式部が自らの境遇を彼女に重ねた」という説もあるそうで、それをふまえて読むとまた一味違った印象を受けます。
ではでは、また次回の第四帖「夕顔」にて。